早期リタイアに必要な資産目標額の算出と計画への組み込み方
早期リタイア(FIRE)を目指す上で、まず明確にするべきは「いくら資産が必要か」という具体的な目標額です。この目標額が定まらなければ、その後の資産形成計画や運用戦略を効果的に立てることは難しいでしょう。ここでは、FIRE達成に必要な資産目標額を算出するための基本的な考え方と、それを自身のFIRE計画に組み込むためのステップについて解説します。
FIRE目標資産額算出の基本概念
FIRE達成に必要な資産目標額を算出する上で、最も一般的に参照される考え方に「4%ルール」があります。これは、年間の生活費の25倍の資産があれば、その資産を年率4%で運用することで、理論上は資産を枯渇させずに生活費を賄えるというものです。
例えば、FIRE後の年間生活費が400万円と見積もられる場合、必要な資産目標額は以下の計算式で算出されます。
年間生活費 × 25倍 = 資産目標額 400万円 × 25 = 1億円
つまり、この例では1億円の資産があれば、そこから年間400万円を取り崩して生活しても、理論上は資産が減らない、ということになります。この4%という数字は、過去の米国株式市場の長期的なリターンとインフレ率を考慮した研究に基づいたものであり、あくまで目安として捉える必要があります。
FIRE後の生活費の見積もり方
FIRE目標資産額を算出する上で、最も重要な要素の一つがFIRE後の年間生活費の見積もりです。現在の生活費を基に考えるのが出発点ですが、FIRE後のライフスタイルによって支出は大きく変動する可能性があります。
具体的な見積もりステップとしては、以下の点を考慮すると良いでしょう。
- 現在の支出を把握する: まずは、現在の月々の支出、年間の支出(税金、保険料、旅行費用、家電買い替えなど)を詳細に洗い出します。家計簿アプリやクレジットカードの明細などが役立ちます。
- FIRE後の生活スタイルを具体的にイメージする:
- 住居費(持ち家か賃貸か、ローンの有無、修繕費など)
- 食費
- 光熱費、通信費
- 保険料(医療保険、生命保険など)
- 交通費(車の維持費、公共交通機関の利用頻度)
- 趣味・娯楽費(旅行、外食、習い事など)
- 被服費
- 教育費(お子様がいる場合)
- 医療費
- その他(冠婚葬祭、予備費など) FIRE後に増える可能性のある支出(例: 旅行、趣味への投資)や、減る可能性のある支出(例: 通勤費、仕事上の交際費)を考慮して調整します。
- インフレを考慮する: 長期にわたるFIRE生活では、物価上昇(インフレ)が生活費に影響を与えます。現在の価値で算出した生活費に、将来的なインフレ率を織り込んでおく必要があります。例えば、現在の年間生活費が400万円でも、20年後の400万円の価値はインフレによって目減りしている可能性が高いです。
- 公的年金などの収入源を考慮する: FIRE年齢にもよりますが、将来的に公的年金や企業年金、またはFIRE後も続ける可能性のあるパート・アルバイト収入などがある場合は、それらを考慮して、資産収入から賄う必要がある金額を調整します。
これらの要素を総合的に考慮し、FIRE後の年間生活費を現実的な金額で見積もることが、正確な目標資産額算出の鍵となります。
目標資産額を計画に組み込む
具体的な目標資産額が算出できたら、次にその目標を達成するための具体的な計画を立てていきます。
- 現状とのギャップを把握する: 現在の資産額と、算出した目標資産額との差額を確認します。この差額が、今後 FIREまでの期間で積み上げていくべき金額です。
- 差額を埋めるための要素を検討する: 差額を埋めるためには、主に以下の3つの要素を調整することになります。
- 貯蓄額(貯蓄率): 年間(または月々)いくら資産形成に回せるか。収入を増やすか、支出を減らすことで貯蓄率を向上させます。
- 運用利回り: 投資によって資産をどのくらいのペースで増やせるか。適切な資産配分とリスク管理に基づいた運用が重要になります。
- 期間: FIRE達成までの年数。期間が長ければ、複利の効果をより享受できますが、計画の 불확실성(不確実性)も増します。
- 実現可能性を検討し計画を具体化する: 現在の貯蓄ペースと期待される運用利回り、そしてFIREしたい時期を考慮して、目標達成の実現可能性を検討します。目標が高すぎる場合は、FIRE時期を遅らせる、生活費の見積もりを見直す、さらなる収入増加や支出削減を目指すなど、計画を修正する必要があります。 例えば、目標まであと5000万円、期間が10年ある場合、年間500万円を貯蓄・運用で増やす必要があります。現在の貯蓄ペースが年間200万円であれば、残り300万円を運用利回りで達成する必要がありますが、これはかなり高いハードルかもしれません。このように、具体的な数字でシミュレーションを行うことが重要です。
- 計画を定期的に見直す: 一度立てた計画も、時間の経過とともに自身の状況や市場環境は変化します。年に一度など、定期的に目標資産額の見積もりや、計画の進捗状況を確認し、必要に応じて計画を柔軟に見直していくことが、FIRE達成への確実性を高める上で非常に重要です。
考慮すべきリスク
FIRE目標額の設定と計画立案においては、いくつかのリスクも考慮しておく必要があります。
- インフレリスク: 前述の通り、物価上昇により生活費が増加する可能性があります。資産運用においては、インフレ率を上回るリターンを目指すことが重要です。
- 運用リスク: 投資には元本割れのリスクが伴います。市場の変動によって資産価値が計画通りに増加しない、あるいは減少する可能性も考慮し、リスク分散を心がける必要があります。
- 長寿リスク: 想定以上に長生きした場合、資産が枯渇するリスクです。より保守的な取り崩し率(例: 3%など)を採用する、FIRE後も一部収入を得る、公的年金の繰り下げ受給なども選択肢に入ります。
- 予期せぬ支出: 医療費や住宅の大規模修繕など、計画していなかった大きな支出が発生する可能性もあります。一定額の緊急資金を確保しておくなどの対策が有効です。
これらのリスクを完全に排除することはできませんが、リスクを認識し、計画段階で対策を講じることで、より安定したFIRE生活を送るための準備を進めることができます。
まとめ
FIREに必要な資産目標額の算出は、早期リタイアという大きな目標に向けた最初の、そして最も重要なステップの一つです。FIRE後の具体的な生活をイメージし、現実的な生活費を見積もることから始め、4%ルールなどの目安を参考に目標資産額を算出します。そして、現在の状況とのギャップを埋めるための具体的な貯蓄・投資計画を立て、定期的に見直しを行うことが重要です。
この目標設定と計画立案のプロセスを通じて、FIREが単なる憧れではなく、達成可能な具体的な目標として認識できるようになります。ぜひ、ここからご自身のFIREロードマップ作成を始めていただければ幸いです。